『翔んで埼玉』公開!観る前におさらいしたい北関東発ローカル・ムービー4選
ライター : シオ・コージ
前代未聞の地元ディスり映画『翔んで埼玉』がついに2月22日(金)ベールを脱いだ。
原作にはないエピソードを盛り込み、早くも埼玉県を中心に大きな反響を巻き起こしつつある。
「埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ!」や「埼玉ポーズ」は、今年の流行語となるのではないだろうか。
『翔んで埼玉』をはじめ、地方の特色を描いた「地域発ムービー」の傑作は多い。
今回は埼玉と北関東の3県から、それぞれ代表ともいうべき作品の数々を取り上げてみた。
これが埼玉の青春だ!『SR/サイタマノラッパー』
トップバッターは、我らが埼玉から。
片田舎でくすぶるラッパー志望の青年たちを描いた『サイタマノラッパー』(通称『SR』)だ。
監督の入江悠氏が自腹の200万で製作。
「これがダメなら映画をやめる気でいた」そうだが見事に大ヒット。まさに埼玉発のサクセス・ストーリーだ。
舞台は架空の町、埼玉県フクヤ市だが、これは監督の出身地、深谷ネギの名産で知られる深谷市がモデルと考えていいだろう。
映画の中のフクヤ市は「レコード屋もライブハウスもない町」とディスられているが、まさか実際の深谷はそんなこともないだろう。もしそうならミュージシャンやラッパー志望の若者はみんな町を出て行ってしまうに違いない。
『SR』は好評を博し、シリーズ化されて三部作となった。群馬を舞台にした2作目では女子高生ラッパー役で安藤サクラさんが出演しているのも注目だ。
……埼玉とラッパー、不似合いな気もしないではないが、現実に僕の地元・春日部にも春日部鮫さんというラッパーがいらっしゃる。
『翔んで埼玉2』が製作されることになったら、ぜひ音楽を担当していただきたい。
斬新な映像でイナカを描写『下妻物語』
嶽本野ばら氏の小説を、『嫌われ松子の一生』『告白』の中島哲也監督が独特なセンスで映像化した『下妻物語』。
深田恭子さん演じるロリータ少女と、土屋アンナさん演じるヤンキーの友情ストーリーだ。
茨城県下妻市の田園風景がどぎつい色調で表現され、シュールな味わいをかもしだす。
そびえ立つ牛久大仏をはじめ、ジャスコ(現在はイオン)、巨大パチンコ店など田舎のアイコンが続々登場。
一面に田んぼが広がる地域では、これらは重要な目印となるのだ。
つくり込んだ映像と激しいロックサウンド。このキッチュなテイストは、田舎のヤンキーが夜な夜な集まる驚安ストア「ドン・キホーテ」に通じるものがある。
「ロココ時代のフランスに生まれたかった」とつぶやく深田恭子のロリータ少女。古い日本家屋の中をデコレーションし、自分はパリ生まれという幻想にひたりきる。
改造スクーターを乗りまわす土屋アンナが地元ヤンキーの象徴なら、ロリータは地元になじめない人間の代表だ。
二人がスクーターで疾走するラストシーン、まんま『テルマ&ルイーズ』だ。
全編グンマ愛に満ちた『お前はまだグンマを知らない』
群馬のハイスクール・ライフを描いた『お前はまだグンマを知らない』。井田ヒロト氏原作のコミックの映画化だ。
主人公は千葉から群馬へ転校してきた高校生。新しい高校までチャリ通だが、アカギ山からのからっ風で自転車が前に進まない(そのかわり下校時は追い風になる)。そのため、地元の女子高生は強風に鍛えられ、競輪選手みたいに太ももやふくらはぎがごつい。
この映画、ほとんどストーリーらしいストーリーはないといっていい。とにかく群馬に関する小ネタばかりでできてるような作品だ。
主人公のクラスメートたちは地元のことに異常にくわしく、「群馬は歴代総理大臣を四人も輩出」「ねぎとろは群馬が発祥」など次々とトリビアな知識を披露。校内のあちこちにも「車は一人一台」「県庁ビルの高さは日本一」と張り紙が。
思わずマインドコントロールされてしまいそう。ちょっとしたファシズムだ。
そんな群馬に攻め込んでくる茨城のヤンキー軍団「こうもんボーイズ」。栃木も虎視眈々と群馬を狙っている。まさにGO WEST、西部開拓時代のアメリカ同然だ。
みずからを誇りをこめて「グンマー」と呼ぶ群馬県人たち。埼玉県民はこの郷土愛の強さを見習って、グンマーの爪の垢でも飲んでみたらいかがだろうか。
バブル夜明け前の農村を描く『遠雷』
ラストはちょっとマジメに、栃木発の名作『遠雷』を紹介しよう。
低予算でも良質な映画を製作し続けたプロダクション、ATGの作品だ。
立松和平氏の小説が原作で、監督は根岸吉太郎氏。映画の舞台は特定されていないが、原作者の故郷、宇都宮市あたりと思われる。
永島敏行さん演じる主人公はトマト農家の青年。変わりゆく故郷のなかで恋愛、友情、結婚などを経験しながら成長していく。
恋人役、石田えりさんとのビニールハウスの中でのラブシーンは語り草となった。
栃木の農村地帯にも都市化の波が押し寄せ、故郷の姿も変わっていく。田畑を横切る新幹線、ビニールハウスのそばまで押し寄せる住宅地。昔からの住人の心も変わり、農作物づくりを捨て、田畑を売った金で豪遊し、人生を狂わせる……。
1980年代はじめが舞台の、古い作品だが、人々がカネに翻弄されるバブル時代の始まりを予感させ、当時の雰囲気がなんとなくつかめるのではないだろうか。
まとめ
今回の『翔んで埼玉』公開にともなう県民大フィーバーからも分かるように、自分の住む地域にスポットライトがあたるのは、たとえそれがディスりであっても嬉しいものだ。
ぱっとしない小さな街で平凡な日々を過ごし、「自分の人生には面白いことなんか何も起こらない」とあきらめがちな僕たちも、これらの作品にふれて「自分の地元もまんざらじゃないな」と少しは慰められるだろう。
それがやがて地元愛へ育っていく。もう映画や小説、コミックで、都会のカッコイイ若者を描く時代は終わっているのではないだろうか。
まずは劇場で『翔んで埼玉』を、そしてレンタル店などで今回取り上げた作品をチェックしていただきたい。
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サイタマの片隅に生えた雑草ライター。県東部の地域フリーペーパーを中心に執筆。得意ジャンルは本、映画、音楽などですが、書く場所がなくてもっぱら個人ブログで発表。春日部市在住。