埼玉県蕨市「アイスリボン」の挑戦(上)
そうだ埼玉.com公式ライター:宮本ノウル
夢を諦めない
例えば秋葉原では、少女たちが日々歌とダンスのレッスンに明け暮れている。
一人ひとりのファンの手を最高の笑顔で握り、グッズを買ってもらうことで自分を知ってもらう。
汗も流す。涙も流す。去っていった子たちもいる。
でもそれでも頑張る彼女たちは、いつか満員の観客たちに囲まれ、スポットライトの眩しいステージに立ち、多くのファンの声援を受けながら華々しく歌い踊る日を夢見て、今日もマイクを握りステップを踏む。
そんな「少女」たちは、埼玉県にもいる。
彼女たちにもそれぞれの夢がある。ある子はその夢を叶えるために高校を辞めた。ある子は深夜までアルバイトをしながら日々のレッスンに通っている。
彼女たちもやはり、一人ひとりのファンの手を最高の笑顔で握り、グッズを買ってもらうことで自らをアピールする。汗も流す。涙も流す。人一倍流す。
去っていった子たちのほうが多い。立ち上げた時のメンバーは誰も残っていない。
それでも夢を諦めず頑張る彼女たちは、いつか超満員の観客たちに囲まれ、紙テープの舞う眩しい「ステージ」に立ち、多くのファンの声援を受けながら華々しく活躍する日を夢見て今日も―
ドロップキックを飛び、スリーカウントを追い続けている。
JR蕨駅とJR西川口駅のちょうど中間地点。
ここが彼女たちの道場「レッスル武闘館」である。
毎週土曜日は戦い
普段は往来の少ない線路沿いのこの建物に、週末ともなれば、どこからともなく人々が集まってくる。ほぼ毎週、土曜日には彼女たちの「闘い」が開催されている。
ここは、彼女たちが所属する女子プロレス団体「アイスリボン」のホームリング。
普段の練習もここで行っているし、週末には「道場マッチ」として3カード~4カードの興業形式の試合も行っている。
チケットは3000円だが、中学生以下は無料(大人同伴)、高校生と60歳以上の方、そして蕨、戸田、川口に在住の方は2000円で入場できる。
会場に入ると、多くの人々が席に座ることなく立って待つ。中には彼女たちが直売するグッズを買い求めている人もいる。壁には、彼女たちを応援している地元の商店マップ。
会場前方の奥には、彼女たちのシンボルでもある「アイスリボン」のマークが大きく掲げられている。
17時50分。
一人の女子選手がリングに上がり会場整理を始める。子どもを連れている人、女性と一緒に観戦に来た人が優先的に席に案内される。
その後、受付番号順に5人ずつ案内され、各々自由に席を取る。今日も満員御礼。観客は100人を超えた。
前説を担当する世羅りさと藤田あかねが、本日の対戦カードを発表し、それぞれの見どころについて紹介する。プロレスは「点」ではなく「線」で楽しむもの。ある種の「大河ドラマ」である。彼女たちの解説が、対戦カードの付加価値を高めていく。
そして次に、初めてこの「道場マッチ」に訪れた観客を探す。この日は4人。
ヒョウ柄のコスチュームがトレードマークである星ハム子の近所に住むというカップル、プロレス雑誌で「今、一番面白い団体」と紹介されていたので観に来たというサラリーマン風の男性、あとはアイスリボンの所属レフリーである佐藤淳一の友達。
今年の6月で旗揚げ10周年を迎え、いままでの主催大会数は1000大会を越える。その多くがこの「レッスル武闘館」を使った道場マッチ。
最近は外の会場を使った大会も多くなり、週末のみの開催であるが、以前は週2回、多いときは週4回も開催した。そんな積み重ねの上に、今の「満員御礼」がある。
取材当日の試合の様子
「アイスリボン」の魅力とは
有限会社ネオプラスの代表取締役であり、アイスリボンの代表でもある佐藤肇は言う。
「とにかく興業数にこだわった。もちろん興業で得る収入が団体の運営を支えているという側面もあるが、何より彼女たちの姿を一人でも多くの人に見てもらいたかった。一人でも多くの人にアイスリボンを知ってもらいたかった。今でも多い選手は年間200試合近くこなしている」
「アイスリボン」の生命線は選手の個性だ。そしてそれは、アイスリボンの魅力に直結する。
世羅りさ(4年目)は、剣道三段、実父は広島県世羅町の現町長である。
雪妃真矢(2年目)は、フェリス女学院英文科卒業で、日本語、英語、スペイン語、韓国語の4か国語を話せるマルチリンガル。
弓李(3年目)は、学校では柔道部に所属する、現役高校生のレスラー、デビュー時は中学生だった。
沙弥(1年目)は、テキーラのソムリエの最上級である「グラン・マエストロ・テキーラ」の資格も持っているし、星ハム子(8年目)は、北海道に夫と子ども残して逆単身赴任としてリングに上がっている。
「アイスリボン」には、プロレスでは主要キャラクターであるはずの「ヒール」がいない。そんなものを作る必要がないというのが佐藤肇の考え方である。
選手自身が持っているキャラクターを尊重し、選手自身がそのキャラクターを成長変化させていく。何よりも等身大であることが大切。
普段着の彼女たちは、仮にも「プロレスラー」には見えない。そんな彼女たちが、リングの上で見せる真剣な眼差しや猛々しさも、そんな選手たちの「等身大」が垣間見えるからこそ、より輝いている。
色とりどりのバックボーンを持つ彼女たちが、「プロレス」という、ある種(女性からすれば十分に)特異な分野において、身を削りがむしゃらに闘う。
いつしか観客たちは、そんな彼女たちを応援し始めている自分に気付く。強いから。ルックスが魅力的だから。そうじゃない。頑張っているから、応援してしまうのだ。
だいぶん前にはなるが、某テレビ局で、某アイドルグループの女の子たちがフットサルをするという番組があった。普段は綺麗に着飾り、メイクもばっちり決めて、眩いステージで歌っている彼女たちが、汗まみれになり、化粧やテレビ映りも気にせず、必死にボールを追いかけている姿が話題になった。上手いフットサルの試合が見たいなら、プロのフットサルの試合を見れば良い。でもたぶん視聴者が求めていたのは、「上手いフットサル」ではない。「頑張っている彼女たちの姿」だったのだ。
プロレスでハッピー!
蕨と西川口のちょうど真ん中。100人も入れば「満員御礼」になってしまう小さな会場の小さなリングの中心で、彼女たちは試合後に必ず全員で手を繋ぎ輪になり、「プロレスでハッピー!」と叫んでいる。
親御さんの反対もあったり、復帰が危ぶまれるほどの怪我もしたり、何度も諦めようと思ったかも知れない彼女たち。それでもまだ自分は夢にチャレンジ出来る。
そんな自分たちは「ハッピー!」だと叫んでいる。
そんな彼女たちの姿に、観ている人たちは心を動かされる。頑張っている彼女たちを応援したい。
そのファンの気持ちが「アイスリボン」を支えている。(続く)
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そうだ埼玉.com公式ライター : 宮本ノウル
某グルメサイトの大宮地区1位の経歴を活かし、埼玉のB級グルメ情報、お役立ち情報を中心に執筆する、不惑の会社員。
埼玉県さいたま市在住
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