伝統の大凧あげが開催中止に…埼玉東部のコロナ状況

2020年03月31日

公式ライター : シオ・コージ

はじめはテレビの向こうの出来事でしかないと、対岸の火事を見物するようなつもりで傍観していた今回のコロナウイルス問題。

全国一斉休校が始められたあたりから、しだいに他人事ではなくなってきた。

今回は筆者が住む埼玉県東部、春日部を中心にしたコロナ状況を報告する。

ここ春日部でも3月19日に最初の感染者が確認され、この原稿を書いている3月22日現在で5人目を数えている。

イベントの開催が中止になったり、公共施設の休館などもあとを絶たない。

筆者は長年、地域の情報紙に公共のイベントなどの記事を書いている。今回の事態を受けて次々とそれらが軒並み中止をくらい、おかげで今月入っていた仕事はすべてキャンセルになってしまった。

ヒマなのでどこか出かけたいがお店も閑古鳥が鳴いていて、おまけに仕事も途絶えているので先立つものがない。

小中学生たちと同じように、長い春休みを過ごしているような気分になる。

そんな矢先、3月19日に飛び込んできたニュース。

毎年ゴールデンウィークに催され、すっかり街の名物となっている大凧まつり、および同時開催の大凧マラソン大会中止の発表だ。

春日部市（正確には合併前の旧庄和町）の大凧あげは江戸時代から続く歴史ある伝統行事。国の無形民俗文化財にも指定されている。

タテヨコ10メートルを越える赤と緑のツートンカラーの凧を、ハッピ姿の若い衆が江戸川土手の上から飛ばす。

飛びそうでなかなか飛ばず、毎年見物の観衆をやきもきさせる、興奮度100パーセントのお祭りだ。

大凧あげだけではない。市では４月開催予定の「第3回藤テラス」「第39回かすかべ藤まつり」なども中止が発表された。

大凧と並んで藤も地元の風物詩。しんちゃんだけが春日部じゃないのだ。

春日部市民、とくに合併前の旧庄和町に住む人々にとって、大凧あげ中止はまさに寝耳に水の出来事。衝撃が走ったろう。

それにしてもゴールデンウィークのイベントが2か月も前にもう中止の決定とは……。

ちょっと気が早すぎやしないかと感じる人も多かったようだが、今回の決断はそれほど勇み足というわけでもないらしい。

実は大凧あげについては今年のはじめから、さまざまな準備が進められていたのだ。

2月から徐々に凧の制作が始まり、同じ月の下旬には地元の大凧保存会下若組有志により、学校の体育館をつかって凧の表面に文字が書き入れられた。

この作業そのものがひとつのイベントとなっており、一般の見学者を入れて、毎年公開形式で行われる。

筆者も昨年その様子を取材したが、広い体育館の床いっぱいに巨大な凧が敷かれ、鮮やかな赤や緑色の文字が書かれていく作業は圧巻のひとことだ。

凧文字には毎回、その年にふさわしいものが選ばれる。昨年は令和元年でもあったため「令和」「元年」などが選ばれた。そのまんまじゃないか！

春日部の石川市長がいなせな白いハッピを羽織り、入魂の一筆を書き入れる姿もキマっていた。

今回は記念すべき東京五輪開催のオリンピック・イヤーにあたっていたこともあり、「東京」「五輪」などの文字がしたためられた（注・この原稿執筆後、政府は東京五輪の開催延期を決定）。

このように順調に大凧制作は進められていたのだが、今回のコロナウイルス感染拡大を受け、事態は微妙な展開を見せ始めた。

いったい大凧あげは決行か、はたまた中止か……。

開催を見込んでこれ以上作業を進めれば、中止になったときの被害も増大する。取りやめにするならできるだけ傷が浅いほうがいい、そう判断しての本番二か月前の中止決定だろう。関係者の苦渋の決断がしのばれる。

イベントの取材も減り、ぽっかりと穴があいたような日々。

自宅で過ごすのにも飽きて、近所の江戸川の土手へ出た。

毎年、空を舞う大凧をひとめ見ようと大勢の人々が集まる江戸川土手。お祭り会場より少し下流には一面に菜の花が群生する。

毎年なにげなく見ているがここ最近急に広がったように感じる。対岸の千葉側も黄色いじゅうたんを敷きつめたようだ。この風景もいずれ埼玉県東部の名所となってほしい。

どこにも行く場所がないストレスを抱えながらも、人々はどうにかして身近な暮らしの中にささやかな楽しみを見つけようとしている。

誰もがいま、何らかの形で大きな打撃を受けているだろう。それぞれ事情はちがうにしても、大変な思いをしていることには変わりない。

こんな時こそこういった風景の中を歩いて心の余裕を取り戻してみたい。

やせ我慢かもしれないけど……。

シオ・コージ

サイタマの片隅に生えた雑草ライター。県東部の地域フリーペーパーを中心に執筆。得意ジャンルは本、映画、音楽などですが、書く場所がなくてもっぱら個人ブログで発表。春日部市在住。